柑橘で季節を感じる
日本の柑橘といえばみかん(温州みかん)がスタンダードですが、冬から春へと季節が移り変わっていくこの時期は、このみかんに代わって実に様々な柑橘がお店に並ぶ時期でもあります。
伊予柑、八朔(はっさく)、甘夏といった有名どころに加え、近年も不知火、はるかなど新たな品種が続々と生まれているようです。
それぞれに収穫の最盛期が微妙にずれているおかげで、柑橘好きの方にとってはこれから春、初夏にかけて季節の移り変わりに応じていろいろな柑橘を次々に楽しむことができます。
ただ、晩柑とも呼ばれるこの時期の柑橘たちは他の果物や温州みかんと比べると甘みよりも酸味が強く苦いというイメージがあって、中にはあまり得意でない方もいらっしゃるかと思います。
私も子どものころはどちらかというとこれら晩柑があまり得意なほうではなく、母親がせっかく皮をむいてくれた八朔や伊予柑をいつまでもテーブルに持て余していた覚えがあります。
その酸っぱい、苦いといったなんとなくのイメージのまま、大人になってからもこれまで積極的には買い求めておらず、青果売り場の壮観な黄色いグラデーションをただ眺めるばかりだったのですが、とあるきっかけから柑橘類についてあらためて興味が湧いてくるようになりました。
きっかけはライム
そのきっかけとは、食後酒にジンを飲むようになったことです。
ジンはボタニカル(香草など)で香りづけされた蒸留酒ですが、このジンは、そのままジンライムという名前のカクテルもあるように、ライムがよく合うんです。
ライムのフレッシュな香りと酸味、苦味はジンのふくよかさやボタニカルの複雑な香りをうまく引き立ててくれます。
この組み合わせをめっぽう気に入りまして、果たしてジンをいただくために、合わせて絞り入れるためのライムを常に冷蔵庫に欠かさないようになったのですが、ライムはそもそも生食に向かない香酸柑橘と呼ばれる酸味の強い柑橘です。
あまり得意でなかったはずの柑橘の酸味、苦味にこうしてむしろ執着するようになった今ならば、この時期に立ち並ぶあの苦酸っぱそうな柑橘たちも、子どもの頃とはまた違った味わいを感じて楽しめるのではと思ったのです。
そこで今回はこの時期の柑橘類をいくつか食べ比べてみることにしました。
先述の通り時期によって次々と売り場の柑橘ラインナップが変化していく中で、今回買い揃えてみたのは全7種類。
八朔(はっさく)、伊予柑、甘夏、不知火、はるか、ポンカン、メロゴールド。
手で剥けるものは手で、皮の厚いものはナイフで剥いていきましたが、一気に台所が柑橘のさわやかな香りに包まれました。
ひとえに柑橘の香りといっても品種によってそれぞれの香りにけっこうな違いがあることも感じました。どれも芳しくていい香りです。
さっそく食べ比べていきます。
八朔(はっさく)
和歌山県産 だいたい1月中旬から4月下旬
甘さも酸味も上品。独特の苦味も含めてバランスがよく、食感もサクサクとして特徴的。
伊予柑
愛媛県産 だいたい1月上旬から3月下旬
甘さもあるが酸味も強く、味の濃い印象。苦みはそれほどなくみずみずしい。
甘夏
和歌山県産 だいたい3月上旬から6月中旬
出始めだったこともあってか、酸味がとても強い。苦みもあるがみずみずしく後味スッキリ。
不知火
熊本県産 だいたい12月中旬から5月上旬
特徴的な外観ですが、酸味と苦みが抑えられた温州みかんにも通ずる味でコクを感じ、とても甘い。皮が薄く食べやすい。
はるか
長崎県産 だいたい2月中旬から3月下旬
丸いレモンのような外観で、実は小さく種が多いけれど酸味は控えめ。甘さ、酸味、苦みのバランスよくさわやかでやさしい味わい。
ポンカン
愛媛県産 だいたい1月上旬から3月下旬
甘みがとても強く、濃厚な印象。酸味や苦味はほのかで全体的に他の柑橘に比べてまろやか。
メロゴールド
カリフォルニア産 だいたい11月下旬から3月上旬
特徴的な甘い香りで、酸味と苦みがしっかりあるが、甘みも負けず感じられ、大ぶりでみずみずしい。
それぞれの香りと味わい
当初予想していた以上にひとつひとつの品種にどれも違った個性がありました。
甘さだけでなく、酸味や苦み、コク、またそれら全体のバランスが相まってそれぞれの品種ごとの特徴を生み出していて、どれもおいしく、甲乙つけ難い贅沢な試食になりました。
あえて申し上げるなら、他と比べると甘さや酸味が突出していない八朔(はっさく)のほろ苦さや、はるかの少々食べづらくもやさしくさわやかな味わいは、複雑な味わいを好むようになった、いわば大人の柑橘の魅力のようなものを強く感じました。
これからの季節、さらに多くの品種が続々と売り場に並んでいくことと思います。ぜひ自分好みの柑橘を探してみてください。
差し当たって私の場合は、この大量の柑橘たちをどういただこうか考えねばなりませんが・・・。