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~北海道便り 5月中旬~鈍器本とアイヌネギ

2021.05.21

「小説を読む」ということが日常生活の大きな部分である場合、図書館の存在はじつに心強いものです。

図書館に行くと最初に見るのが新刊コーナーの棚。
馴染みの作家の新刊、新人作家のデビュー本、気になりながらまだ読んでいない直木賞作家の新刊。
どの本を読もうか悩む時間も嬉しいものです。
そして、最近目につくのがやけに分厚い小説本。

300ページ前後が普通の本の厚さなのですが、600ページを越える本が棚のなかで、どっしりと存在感をアピールするのです。
以前ならば上下巻にわかれていたと思われる厚み。
内容以前に、手に持つことを躊躇う程の重さ。

そんな分厚い本のことを「鈍器本」と呼ぶことをつい最近知りました。
鈍器本の中にはベストセラーもあるとのことで、読書を欠かさない自分としてもぜひ体験したいところ。
今回ちょうどよく、好きな作家の分厚い本を見つけたので思いきって借りて来ました。

堂々の鈍器本

中央にある、 乃南アサ「チーム·オベリベリ」

通常の厚さの本と並べてみましたがほぼ2倍の厚みがあります。

堂々の667ページ。
厚さ約6cm、重さ600gを超えています。
堂々の鈍器本。
もはや読書しながら、筋トレでしょうか。

小説の内容は実話をベースに帯広開拓の初期10年間を生きた人々を描いた作品。

時代は明治初期。
主人公は横浜のキリスト教系女学校を卒業し、子供たちの教鞭をとっていた鈴木カネ。カネの兄は友人の2人と‹晩成社›を立ち上げ、後に帯広と呼ばれるオベリベリの開拓を志します。
カネはその兄の友人の一人である渡辺勝の妻となり、北海道に渡ります。勝もカネも出自は武家。
ただ、過酷な気候と広大で頑なな原野の前では武家出であれ、農民出であれ、鍬を持ち、鋤をもち躰を動かすことでしか生き延びる術はありません。カネ達は風習、文化、信仰の違いに戸惑いながらも、先住民族のアイヌに知恵を貰い共存共栄を目指します。
アイヌ語でノヤ ( ヨモギ )や プクサ ( アイヌネギ ) などの野草を薬とすることや、鮭や鹿の処理や保存方法なども習い覚えていき、、、

と、だんだんと小説の世界に入り込んでいったところへ、友人から電話がかかって来ました。

「アイヌネギ、たべるかい?」

何というタイミングでしょうか。
いま正に読んでいたところ。

「食べる!食べる!」

前のめりで返事はかえしたものの、、、さてどう調理しようか。
鈍器本を一旦置いて頭を切り替えます。



北海道でいう「アイヌネギ」は 「行者にんにく」のことです。
「アイヌネギ」は今の季節にしか採れない山菜。
天ぷらも美味しいし、酢味噌和えも捨てがたい。
迷ったときは「醤油漬けに」しておくに限ります。
2〜3日ねかせておけばきざんで薬味にしたり、ニンニク醤油として調味料にしたり、暫く楽しめます。


行者にんにくの醤油漬け


作り方は至極簡単。
さっと茹でた行者にんにくを冷水でさらしておく。
合わせ調味料 を一度火にかけアルコールを飛ばし、冷ましておく。
水気を切った 行者にんにくを合わせ調味で漬けるだけです。 

合わせ調味料
・醤油、酒を同量、みりんをお好みで四分の一から半量をめどに。




漬けてから3日ほど経った行者にんにくを取り出して、細かく刻みました。

まだ葉が開く前の若い行者にんにくだったからでしょう。想像したほどにんにく臭は強くありません。にんにくと三つ葉を合わせたような、むしろ爽やかな匂いがします。そのまま一口。

野性味が溢れ、爽やかな旨味があります。
うまく仕上がりました。


行者にんにくの醤油漬け を使って

今日は 豚肉を焼いて、行者にんにくの醤油漬けで味をつけていきます。

使うお肉は、豚肉ならば生姜焼き用、とんかつ用、切り落とし、その時都合の良いものを使いましょう。

今日は薄切りロースにしました。

薄く油をひいたフライパンに、軽く塩コショウをした豚肉を焼いていきます。



火が通ったら鍋肌から行者にんにくの香りが染みた漬け込み用の合わせ調味料を入れます。

火を入れると香ばしいにんにく醤油の香りがひろがります。




キャベツと新玉ねぎの千切りをつけあわせ、刻んだ行者にんにくと一緒に頂きます。少し焦げ目のついた豚肉の上に刻んだ行者にんにくを乗せ、クルリと包み込んだらパクリ。
猛々しいほどの力強さと同時に大きな優しさを感じます。

美味しい!

「滋味」というのはこういう味を言うのでしょうか。
ビールのお供にもご飯のおかずにも、グビグビ飲めてガブガブ食べられます。


原野に思いを馳せながら


きっと渡辺カネさんは、行者にんにくを鹿肉と一緒に食べたに違いない。などと、勝手な想像をしながら明治初期の北の原野へ思い馳せつつ、とても美味しく頂きました。
まだ 醤油漬けはあるので、次回は鹿肉とあわせてみようか、と思っています。
野生×野生 。 期待できます。
(北海道には精肉売り場に鹿肉が普通に並んでいるスーパーもあります。)

今回は先人の苦悩と知恵に敬意をこめて、大地の懐の深さに感謝。

改めて北海道の豊かさ、逞しさを感じた食卓となりました。

ご馳走さまでした。

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