
日本酒を楽しむ
日々の疲れに寄り添って、そっと癒してくれるもの。
それは大切な人の笑顔だったり、好きな音楽や映画だったり、太ももに乗って甘えてくる猫だったり、人それぞれにあると思います。
おいしい晩ごはんにおいしいお酒!もそのひとつ。
おつかれさまの一杯の幸せ、いわゆる晩酌です。
この晩酌、古くは唐の時代の詩人白居易の詩にその言葉が出てくるそうで、ずいぶん昔から晩ごはんと共にお酒を楽しむという習慣は親しまれてきたようです。
日本では古き良き晩酌というと、ちょっとした肴と透き通った日本酒を小皿とお猪口でささやかに楽しむ、といった粋なイメージがあります。
これに漠然とした憧れはあるのですが、普段はもっぱらビール、料理に合わせて時にワイン、焼酎あたりが我が家での晩酌の定番となっています。
たまのお寿司屋さんなどでいただく日本酒に舌鼓しては、家でも日本酒をしみじみ楽しんでみたいと、よくわからぬままに何度か買い求めてみたりもしていたのですが、結果これまであまり定着はしませんでした。
それなりにはおいしい、けれどもなぜか、家だと香りも味も物足りない気がしていたのです。
もちろんお店でいただくのとは銘柄も違えば雰囲気や料理も違うのですが、家では家での日本酒の楽しみ方がきっとあるはず。もっと日本酒それ自体の味をうまく引き出せる方法はないのだろうか。
あれこれと調べていたところ、自宅でも試せそうなひとつのポイントを見つけました。
それは“日本酒の温度”です。
燗を知る
お酒そのものを加熱することを燗を付けるといいますが、熱燗、ぬる燗といった言葉に馴染みがあるように、昔から日本酒はこの燗酒で楽しまれてきました。
温度の高いほうから、飛び切り燗(55度前後) 、熱燗(50度前後)、上燗(45度前後)、ぬる燗(40度前後)、人肌燗(35度〜37度前後)、日向燗(30度から33度前後)と、同じ燗酒であっても実に5℃ほどの微妙な差ごとにそれぞれ違う呼び名がつけられています。
さらには冷や(常温、20度前後)、涼冷え(15度前後)、花冷え(10度前後)、雪冷え(5度前後)と冷酒に至るまで温度ごとに細かく区分けされているそうです。
これまではなんとはなしに日本酒は冷蔵庫で冷やしていただくもの、もしくは熱燗と大雑把にしか捉えていませんでしたが、これだけの呼び名があるということはつまり、日本酒は温度による変化が重要のようです。
そこで、温度による日本酒の味わいの違いについて実験してみました。

今回いただいたのは酔鯨という高知県の蔵元の特別純米です。一般的に燗には純米酒が向くそうで、この酔鯨も冷やでよし、燗でもよし、とあったので選ばせていただきました。

日本酒を温めるには湯煎で徳利に入れると香りが飛ばず均一に温まりいいようです。今回は細かく温度計で測っていくため、酒だんぽ又はちろりと呼ばれる燗酒用の筒型容器を使って温めていきます。

燗していく前にまずは常温の状態でいただいてみます。温度は14度だったので冷やというよりは涼冷え、でしょうか。
香りは上品でなめらかな口当たり。旨みが広がったあとに辛味を感じました。おいしい。

続いていよいよ燗を付けていきます。まずは日向燗(30度から33度前後)。
日向でやんわりと暖まっているくらいの温度、ということなのでしょう。先ほどの常温に比べ、辛味が最初から来る感じ、うまみもキレも若干強くなっている感じがします。
次は人肌燗(35度〜37度前後)。
思っていたよりも変化を感じました。うまみがより強くなった感じがします。これはおいしい。あての塩辛が進みます。

続いてぬる燗(40度前後)。
温度がしっかり感じられるようになりました。それに伴ってなのか、繊細な味わいというよりは、全体的なまろやかさが増したように感じます。
次は上燗(45度前後)。
ぬる燗に比べ辛味が増した感じがします。依然としてまろやかさがあり、うまみもしっかり感じられます。
そしていよいよ熱燗(50度前後)。
一度でもいただいたことのある方ならわかるであろう、口に含んだ瞬間にカァッと来るいわゆるあの熱燗の慣れた味と香りに近くなりました。辛味がぐんと存在感を増しました。

最後は飛び切り燗(55度前後)。
いわゆる熱めの熱燗という印象です。若干辛口のスピード感が増したかも。それと同時に他の繊細な味わいはどこかに消えてしまったように感じます。
・・・ということで、温度が上がっていくにつれて私のような素人でもわかるくらい、みるみる味わいが変化していきました。
当然ながら銘柄や分類によって大きく変わってくるものだとは思いますが、個人的には日向燗や人肌燗のあたりで香りとうまみが一気に開いていくのが感じられ、とても繊細なおいしさを感じました。
熱燗や飛び切り燗は温度が高いこともあって辛味の刺激が強くなるため、今回の趣旨からは少しズレてしまったように感じましたが、それでも寒い日などにこの熱さはやはりうれしいです。
ちなみに翌日、冷蔵庫に保存しておいた同じ酔鯨の残りを冷酒でいただきました。温度を計ったところ花冷え(10度前後)あたりで、昨日の印象とは一転し、随分とすっきりした味わいでした。
キリッと冷たくとても飲みやすかったのでこれはこれで好む方もいるかと思います。
しかしこれこそが、日頃私が家での日本酒に感じていた物足りなさの正体だったのかもしれません。
香りやうまみを開くには、いただく前に冷蔵庫から出しておいて常温に近づけるか、もしくは人肌燗にしてみる。
自分好みの日本酒へはまずこのあたりから始めるとよさそうです。

水、米、麹というシンプルな主原料ながら、温度によって大きく味わいが複雑に変化する日本酒。
銘柄や分類による違いや合わせる料理の個性との組み合わせなど、あれこれ試してみたいことが増えました。
今回使った酒たんぽや徳利、片口を利用して温度を調節しつつ、自分好みの日本酒晩酌を探っていこうと思います。
週に2日は休肝日を心がけつつ。