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マルチピュアの特集

水が違えば料理も違う? 料理と水のおいしい話

2017.04.14

土地によってそれぞれの料理の味があるように、実は水も、土地ごとに味や性質に違いがあります。「本場の味は一味違う」なんて言うけれど、「料理に使う水が違えば、調理法や味にも少なからず関係してくるのでは?」ということで、今回は水と料理についてのおはなしです。

軟水と硬水

水の違いは、水の中のミネラルの量で決まります。

雨水は、山の地層や岩にゆっくりとしみこんでろ過され、地層や岩の中のミネラル分を取りこみながら湧きだします。水に溶けているカルシウムとマグネシウムの量によって、水の硬度が決まります。

WHO(世界保健機関)が定める基準では、硬度120mg未満は軟水、120mg以上は硬水とされています。この硬度によって、水の味や性質も変わってきます。

硬度によって味が変わる

軟水はカルシウムとマグネシウムの含有量が少ないので、口当たりも味もまろやかで、あと味もさっぱりしています。対して、含有量が多い硬水は、重さのある口当たりで、場合によっては苦みを感じるといわれています。

日本の水は軟水、欧米では多くが硬水

日本の水のほとんどが軟水です。日本は国土が狭く、地層や岩に染みこんでいる時間が短いので、水に含まれるミネラルも硬水と比べると少ないです。

 

 

欧米の水は硬水が多いです。欧米は国土が広大なので、雨水も地層に長くとどまり、ミネラルの含有率が高くなると言われています。欧州の一部の地域では、一晩汲み置きした水のミネラル成分が結晶化して、翌朝に白濁することもあるほどです。日本でも、同じ理由で湯沸かしポットやシンクに白い固まりのようなものができることがあります。

軟水硬水によって違う食文化

さて、このようにそれぞれ違いがある軟水と硬水ですが、料理との関係も見ていきましょう。

日本ではかつおぶしや昆布で出汁をとりますが、沖縄のソーキそばは昆布やかつおぶしの他に、豚も一緒に煮て出汁をとります。ソーキそばの上に豚の骨付きあばら肉や三枚肉がのっているのは、豚から出汁をとっているからなんですね。

これは、沖縄の水と相性のいい調理法です。日本は軟水が多いですが、沖縄の土壌はカルシウムが主成分のサンゴを含んでいるので、水の中にカルシウムがたくさん溶けています。このカルシウムが肉の臭みとなる成分と結合してアクとして出るので、おいしい出汁がとれます。

同じ日本でも、水によってこんなふうに料理に違いが出るんですね。それならば、「軟水が主流の日本と、硬水が主流のヨーロッパではもっと料理に違いがありそう!」ということで、江上料理学院の江上栄子院長に詳しくお聞きしてきました。

日本は軟水を活かした出汁の食文化

素材の旨味を引き出す軟水

軟水は、かつおぶしや昆布に含まれるグルタミン酸やイノシン酸などのうまみ成分が溶けやすく、和食に欠かせない出汁をとるのに向いています。硬水だと、水に含まれるカルシウムがうまみ成分と結びついてアクとなってでてしまうので、ミネラルの少ない軟水で出汁をとるのは理に適っています。

水の中に砂糖や塩を入れてかき混ぜると溶けていくように、水にはものを溶かす力があります。軟水は溶けこんでいるミネラルの量が少ないので、その分、料理に使ったときに素材の味や香りの成分を自身に溶かして、うまく引き出してくれます。クセのないあっさりした軟水は、相手の持ち味を素直に引き出し、受けいれてくれるのです。

お茶や紅茶も、軟水で淹れると茶葉が持つ甘みや渋み、香りがよく抽出されます。

また、軟水でお米を炊くと、お米がたっぷりと水を吸いこむので、ふっくらしたごはんが炊きあがります。つやつやもっちりしたごはんのおいしさには、軟水の性質も一役買っているのですね。硬水でご飯を炊くと、水に溶けているカルシウムとお米の成分が結びついて、粘り気が少なく芯の残った仕上がりになるので、パエリアには向いています。スペインは日本より水の硬度が高い地域が多いので、このような料理ができたのでしょう。

お米ひとつとっても、その土地の水に合った料理が発展しているのが分かります。

ヨーロッパは硬水を活かした煮込み料理の食文化

素材の旨味を閉じこめる硬水

ヨーロッパは硬水を活かした煮込み料理の食文化です。軟水は素材のうまみを引き出すのが得意ですが、硬水はうまみを閉じこめるのが得意です。

肉の煮込み料理に中程度の硬水を使うと、水の中に溶けこんだカルシウムが肉をかたくする成分と結合してアクとして出ます。じっくり煮込むと臭みも消えて、肉の中にうまみを閉じこめます。硬水は、かたい肉を煮こむときや肉で出汁をとるときに使うとおいしく調理できます。

また、硬水でパスタを茹でると、水の中のカルシウムとパスタのでんぷん質が結合して、コシのある麺に茹であがります。軟水でパスタを茹でたあとは、麺どうしがくっつかないようにオイルをまぶしたりしますが、硬水で茹でたパスタはそのままでもくっつきません。硬水は、このように水の中にあるミネラルをうまく利用した調理法が多いです。

さて、さきほど軟水で紅茶を淹れると、茶葉の味や香りがよく引き出されるとおはなししました。硬水で紅茶を淹れたときは、味や香りは弱まりますが、深い色とコクのある紅茶ができます。水の中のミネラルと渋み成分のタンニンが結合すると、紅茶の上に被膜ができますが、これはミルクを入れると消えるので、イギリスではミルクティーにして飲むことも多く、濃厚でまろやかな味わいを楽しめます。

水に目を向けて食べるのも楽しい

食文化はその土地の水や風土によって育まれています。

お米のもちもちした食感やお茶の香りは、日本の水が引き出したおいしさです。

海外で食べる食事のおいしさも、そこの土地の水が一役買っているかもしれません。日本でも、本場の味を再現するために硬水を使用するイタリア料理のレストランもあるそうです。食事するときは、水についても思いをめぐらせてみると、より一層味わい深いものになると思います。

 
 
協力:江上料理学院 江上栄子学院長

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