水と暮らす街 京都
京都を歩いていると、古都の町並みとともに目を楽しませてくれるのは、大小からなる川や水辺の風景です。
京都はとても水が豊富な土地。街中をいくつもの小川や疎水が流れ、あちこちに水が湧いています。なかでも鴨川は、水運のかなめとして商業や文化を育て、いまも人々の暮らしの憩いの場となっています。そんな鴨川に沿って歩きつつ、遅めの紅葉も眺められたらと思います。
スタートは、下賀茂神社。
賀茂川と高野川、ふたつの川がYの字のように交わるあいだに建つこの神社のご祭神は、平安時代からは、都の水を司る神さまとしても祀られています。
都の水運を担う鴨川の水が集まる場所に、水を司る神さまがいらっしゃるのは心強いですね。
本殿横には、地下水が湧く御手洗池があります。葵祭の禊の儀が行われる神聖な池。7月に行われる御手洗祭(足つけ神事)のときは、だれでもこの池に足を浸けることができます。ここでお祈りすると、1年間無病息災でいられるそうです。
御手洗池の水は、境内の南にひろがる糺の森へ、小川となって流れていきます。赤く染まった木々の下を小川に沿って歩くと、自然と心が静まります。小川はやがて鴨川へ注ぎます。
鴨川に出ると、視界がひらけます。川の上を通る風が気持ちよく、広い川幅の流れはゆるやか。ところどころ亀のかたちをしたとび石があり、リズミカルに人が渡っていきます。そこには、穏やかな鴨川の風景がありました。
鴨川沿いの喫茶店でちょっと休憩。店内はあたたかく、おいしそうなにおいが漂っています。おしゃべりに夢中な女性たち、店員さんと気軽にあいさつを交わしつつ、新聞を広げる初老の男性。地元の方々の日常に身をゆだねながら、熱いコーヒーをいただくと、とてもリラックスできました。
京都の暮らしのなかには、鴨川だけでなく、多くの湧き水もあります。
山に囲まれた京都の地下には、なんと琵琶湖とおなじくらいの水量をたっぷりと抱えた、天然の水がめがあります。
お豆腐屋さんや和菓子屋さんは、きれいな水が湧くところに店を構え、自前の井戸から水を汲み、京の味覚をつくってきたのだそうです。
京都の水は、素材の味を引き立ててくれるとのこと。
最近はいろんな名前の水が売られていますが、その土地から湧いた天然水を、そこで飲めることが、いちばん自然なことなのかもしれません。
京料理や茶道、華道などの京都の文化も、水運の発達や水が豊富にあることによって、より磨かれていきました。
さて、鴨川をさらに南下して、京都市街へ。
江戸時代から見世物や物売りが盛んだった二条から五条のあたりは、今も春から初秋には納涼床が連なり、夕暮れになると次々と灯がともります。
夏に訪れたとき、鴨川沿いで食事を楽しむ人々の賑わいを眺めていたら、今も昔も変わらず、ここの暮らしは情緒にあふれていて、鴨川も京都とともに時を刻んできたんだなぁと思いました。
鴨川は、華やいだ街を抜け、伏見区で桂川と合流し、やがて淀川の大きな流れとなって、海へ注ぎます。
一日歩いてきた鴨川は、小さなせせらぎから穏やかな流れまで、さまざまな表情を見せてくれました。その風景のそれぞれに、京都の人々の生活や、そこに根付く文化を育んできた水の恩恵を感じました。
京都の人々は、鴨川をはじめ、地下水などの自然を活用して、日々の暮らしを潤しています。そんなところも、京都の魅力のひとつなのかなと感じました。